不動産物件を運営する時、想定する入居者の姿として、一人暮らしの大学生を考える人も多いでしょう。
特に地方から出て都心の大学に一人暮らしをする学生、またその地方の中での中心都市にある大学に進学する大学生は非常に多いものです。
しかし若年層の人口が減っている現在、大学生のみをターゲットとした賃貸物件の運営は常に大学生の減少や大学の撤退リスクを負っています。
そのようなリスクを回避するにはどのような対策を取れば良いでしょうか。
日本の大学の現状
まず現在、日本には大学生がどれぐらいおり、それぞれの大学の経営状態はどうなっているのでしょうか。
文部科学省の発表する「私立大学の経営状況について」を見てみましょう。
日本の私立大学で入学者数が定員数に満たない大学の割合は年々増加しており、現在は総数の45%に達するとみられています。特に関東地方以外、一都三県を除いた地方の私立大学の経営状況は非常に厳しいものがあります。
文部科学省でも入居者が減少する傾向のある大学に対して警告を発して学校の経営体制の改善や業務改善を求めています。
国立大学も、それぞれ独立行政法人が運営を行っているために倒産のリスクが全くないわけではありませんが、私立大学に比べれば学校が無くなるリスクは低いと考えられます。ただし学生の数が減れば、もちろん賃貸物件の運営にも影響します。
一方で実は若者の数が減っているからといって、大学生の数が劇的に減っているわけではありません。大学への進学率は年々上昇しているので、若者の数が減るのに対して大学生になる人間の割合は上がっているのです。
大学の入学者数は平成28年の発表で546000人。大学進学率は50%代後半です。先のデータを推測すると、2017年の日本の出生率は約94万人。このまま大学進学率が上昇していけば、2017年に生まれた子供たちが18才となる頃には、大学進学率は65%程度になっているかもしれません。
2035年に大学生になる人間の数は94万人の約2/3、つまり60万人程度が大学生になり、現在より増えている可能性もあるのです。
そのため大学生をターゲットとする不動産物件の運営自体は、まだまだ十分に可能です。問題はやはり大学の撤退になるでしょう。
総務省の統計データによれば日本の大学生の数は約286万人。現在東京、神奈川、埼玉、千葉に大学生は110万人ほどいるため、総数の4割が首都圏に住んでいると考えられます。
首都圏に住む大学生の割合は増える傾向にあるため、都心で大学生をターゲットとしたアパートマンション経営をするのなら、立地が需要になってくると考えられます。
大学が地方から撤退するとどうなる
昭和後半に起こったブームの影響で、都心ではなく郊外に作られた大学のキャンパスも多くありました。例えば渋谷にキャンパスを構える青山学院大学も、一部の学部や短大は神奈川県厚木市にあったのです。
しかし現在では完全に厚木から撤退しており、渋谷に大学のキャンパスを集中させています。このように大学のキャンパスも都心回帰の傾向が進んでおり、今郊外にあるキャンパスを撤退させるということも十分に考えられます。
実際にこのようなキャンパスの移転、もしくは撤退が起きたエリアでは、大学生向けアパートの入居者が一気に半分以下になったこともあるようです。
大学生が住めば安定した需要が見込めると思い、大学のそばに物件を買っても大学の動向次第で入居率に影響して収入が減り、ローンの返済ができなくなることもあります。
郊外にあるキャンパスはバスで通学するほど駅から離れており、アパートの場所も多くが駅から徒歩15分と利便性の悪い場所にありました。
それでも大学が近ければ学生が住んでくれますが、学生が一気に減ると、そんな駅から離れた場所に住む人はほとんどいません。また需要の減少で地価も下落し、不動産の資産価値も下がってしまうので売却しても残債が発生する可能性が高いのです。
そのためこれから学生向けアパートを購入する時は慎重に立地を選ぶだけでなく、大学の動向に注目しなければいけません。
大学の動向を調べるにはどうしたら良いのか
大学の動向を調べるにはどうしたらよいのでしょうか。大学の募集人数や倍率、最終的な入学者数は大学の公式発表または予備校のデータで調べられます。
そのようなデータを見ながら、購入を検討しているエリアの大学の学生数、倍率はどうなっているのか、また志願者数は増えているのか等の数字を見れば、伸びそうな大学や学生が減っていきそうな大学を見極められます。
そしてその上で大学はどのような運営方針なのかを、大学の公式ホームページや業界紙でチェックしておきましょう。
キャンパスの撤退を考える大学は、明らかに学生の数が減っているのでその動向は推測しやすいです。それだけに基本的な情報収集は怠らないようにしましょう。
関東の大学の倍率を国は上げようとしている
一方で地方の大学をターゲットに不動産投資を始めようとする人にとっては、ひとつ明るい情報があります。2018年大学入試の傾向として、関東にある私大の倍率が急激に上がったというデータがありました。
これは都心に若者が集中するようになり、地方から若者が減ることを避けるため国が都心にある大学の募集人数に対し上限を設定したことが影響しています。
これまで順調に学生の数を増やしていた都心の大学の募集人数に制限がかかったため、2018年は一気に人気大学で入試倍率が上昇しました。
今後もこの傾向は続いて行くと見られており、都心の大学に入学できる学生の数が減り、その分地方の大学に入学する学生が増えるとみられています。
もし大学キャンパスの撤退が決まったら
これから物件を購入する人はともかく、既に所有している人は、大学の撤退が明らかになった時にはどうすれば良いでしょうか。
失敗談として実際にあった話では、実践女子大学が日野から渋谷に大半の学部を移転させ、日野でワンルームマンションを運営していた人が、客付けに苦労するようになり最終的には売却せざるを得なかったということもありました。
その少し前には日野自動車の本社工場も撤退していたため、郊外では徐々に単身者向け物件の運営が困難になることを理解しながらも、行動が遅れたため売値がかなり安くなってしまったということです。
まず行うべき対応は、早々の売却です。メインの入居者が大学生であればあるほど、入居率の低下は避けられません。不動産の価値が下がる前に迅速に売却した方が、結果的にダメージを軽減できるでしょう。時間が経てば経つほど建物の価値も下がりますし、大学撤退の情報が拡散されていきます。大学が撤退するとわかった時点ですぐに売却を考えましょう。
もうひとつの対応は間取りを変えてターゲットを変化させることです。大学生ターゲットの部屋はワンルーム、1Kであることが多いでしょう。しかしそれでは大学生、もしくは一人暮らしの社会人しか取り込むことができません。
しかもそういった人たちは通勤通学の利便性の悪い場所にある物件は避ける傾向があります。
それよりもファミリーやカップルをターゲットに、1LDKや2DKに改装することを考えてみましょう。そうすればまた別の需要が生まれるため、近隣で働く人が住んでくれる可能性があります。駐車場が併設されているアパートやマンションならば、駅から離れていても、小さな子供のいるファミリーを取り込めます。
また地方で若者がいないという場合は、高齢者向けマンションやアパートに改装するという手もあります。高齢者が安心して住める設備を持つ住宅への改装は、自治体による補助金制度もあるので、一度調べてみると良いでしょう。
大学の撤退リスクを避けるには
大学が撤退するリスクを避けるには、やはり人気大学の付近に物件を所有するのが一番です。
この記事のように、毎年新年度には週刊誌などで、どの大学が人気で、どの大学で学生の数が減っているかなどの詳しい記事が掲載されます。大学の取り組みによって入居者を伸ばしている人気大学の情報を仕入れ、そういった大学の近くに物件を所有しましょう。
そうすれば大学の撤退リスクを気にせずに安心して不動産投資ができます。
ただし先ほども書いたように関東、特に都心の学生の数は制限される傾向にあります。撤退リスクを過剰に恐れる必要はありませんが、入居者の募集競争率は上がっていくかもしれません。
そうなると物件の設備などでの差別化が必要になってくるでしょう。
貸賃物件を運営するなら大学撤退の影響が少ない立地を選ぶ
地方では十分な数の学生を集める私立大学が減っており、その付近での不動産投資も難しくなってきています。地方で不動産物件を運営するのであれば、指値交渉などで物件を安く購入できるようにして、表面利回りの数字を上げるように対策しましょう。
撤退リスクを下げたいのであれば、やはり都心の大学付近のエリアに物件を購入するのが一番効果的です。ただし都心は地価上昇傾向にあるので、どうしても利回りは悪くなってしまいます。
将来的な売却を見据えてインカムゲインよりキャピタルゲイン重視での不動産経営を考えた方がいいかもしれません。